◆スポンサーサイト

上記の広告は2週間以上更新のないブログに表示されています。 新しい記事を書くことで広告が消せます。  

Posted by スポンサー広告 at

2008年10月29日

◆医療の現在 血液サラサラの行く末5

とある日、或る地域中核病院で、病診連携の勉強会が開催されました。“地域医療”が現在の医療制度のキーワードです。国・行政の基本方針なのです。
様々な医療機関が地域で連携して、住民に安全・安心な医療を提供しようという方針です。連携の重要な柱が、街の診療所と、その地域の中核的な病院との協力関係です。
住民は、健康問題で医療の扉を叩こうと思うとまず、街の診療所を受診する。そこで、問題が解決すれば、一件落着ですが、高度の検査が必要だとか、高度の治療が必要だとかになれば、中核病院を紹介する。そこで、それなりの結論が出て、安定した状態になり、今後、定期的な服薬や検査が必要だとなった時は、中核病院から、最初にかかった街の診療所に戻って、医療を継続するというイメージです。
 医療機能を、効率よく活用して、地域住民の医療への満足度を上げようとする正論です。
これを一言で表現したのが、“病診連携”という言葉です。
 実際に患者を紹介するという、作業の為には、環境整備が必要です。中核病院の医師と町医者がお互い顔見知りになっておくとか、病気や治療に対して、共通の理解を持つということです。この為の、基礎作業として、病診連携の勉強会があります。
今回の勉強会は、冠動脈のステント治療と抗血小板剤でした。中核病院の循環器科専門医が企画・立案したものです。因みに地域中核病院の勤務医は、毎日の医療で過労死直前とも言われますが、こうした仕事もせざるを得ない状況なのです。
 日進月歩の、現代医療の進歩に町医者は、遅れ勝ちです。例えば、冠動脈にステントを留置し抗血小板剤を服用している患者さんが抜歯することになった場合、抗血小板剤は一時的に中止するにか、中止したらいつから再開するのかといった問題です。
 抗血小板剤を飲みながら、抜歯すると血が止まらないかもしれない。かといって止めてしまうとステント血栓症が生じるかもしれないという難問です。
こうしたことについて、病院勤務医は町医者に情報を提供したい、町医者は勤務医に指針を提示して欲しいという訳です。
結果的に血が出ざるを得ない医療行為は、抜歯、生検、手術など様々です。抜歯のようにすぐ血を止める処置が可能なものから、困難なものまでありあます。どの医療行為にはどの抗血小板剤を、何日前から中止するのか。出血の恐れとステント血栓の恐れを天秤にかける訳ですが、あくまで確率の問題ですから、悩みは尽きません。
ステントを留置した循環器の医師は、ステント血栓だけは防止したいと切に思います。他方、胃カメラ検査をする消化器の医師は、抗血小板剤の影響を取って検査したいと切に思います。早期胃がんを見つけて、直すのが消化器専門医の仕事甲斐です。検査中に癌疑いの小病変を見つけた時は生検して、病理医に見てもらうのが、ポイントです。ところが抗血小板剤を服用中だとその生検が躊躇われるのです。
病診連携の勉強会は、循環器専門医と消化器専門医で議論が沸騰します。診療所の町医者からも声が上がります。「とにかく専門医の先生方に、決めて欲しい!」
 医療が専門化する中で医療技術が、どんどん進歩していく昨今、誰がどのような意思決定をするのかが問題です。
私は心の中で思いました。「結局、患者さんが自分で決めるしかないんじゃなだろうか。医師は、問題点の整理と、いくつかの選択肢の提示まではできるかもしれない。しかし、裁判官が、判決をくだすように、医療上の意思決定をするには、医療技術はあまりにも遠くまで来てしまった。専門家の判断を仰いでそれに従うというにはあまりにも複雑な、決定だから」
しかし、その場では、何も言えませんでした。まだまだ医師の世界での、専門家の権威は維持されています。しかし、血液サラサラ問題は専門医の権威で押し切るには、困難なとこに行き着いたのです。 

  


Posted by 杉謙一 at 22:03Comments(0)診療の徒然に