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2009年04月30日

◆医療の現在 メタボ考 5

当然、蓄積した腹腔脂肪を減らすことに焦点を当てています。
これによって、諸悪の根元が,断たれるので、因果的に引き起こされていた、軽度の高血圧、軽度の血糖上昇、軽度の脂質の異常が、複数項目改善されるだろう。
加えて喫煙習慣の禁止も合わせて指導に組み込めば、相当の血管病防止が期待でるだろうという理屈です。

この理屈には、脂肪細胞が、実は、単なる過剰なエネルギーの貯蔵庫ではなく、アディポサイトカインと言われる生理物質を分泌する、一種の内分泌臓器で、そこから、血圧上昇、血糖上昇、脂質異常が惹起されるという、医学的な事実が裏打ちしているのです。

脂肪は、大きく分けて、皮下脂肪と内臓脂肪があり、こうした、内分泌臓器のような働きをするのは、皮下脂肪ではなく、内臓脂肪の脂肪細胞だとされています。
腹腔の蓄積した脂肪とは、内臓脂肪のことなのです。

腹腔の蓄積した脂肪は、本来、腹部のCTスキャナーや超音波などを用いて、測定していたのですが、今回の特定健診のような、巨大な仕組み、すなわち、日本人の40歳以上全員を対象にするという、制度では、とてもそれはできません。
そこで登場したのが、臍の高さで腹囲を測定するという 簡便な方法です。
健診での測定が、簡便だということと、これだと、体重測定と同様、簡単に家庭でできるという利点もあります。

蓄積した腹腔脂肪を減らす→腹囲を減らす と単純化されるわけです。
脂肪1kgを減らすと、腹囲を1cm 減らすことになると 話は、更に分かり易くなります。脂肪1kg・腹囲1cmは、7000kcalのカロリーに相当するという計算です。

夕食後に小振りのショートケーキ1個程度のデザート すなわち300kcal を食べる習慣のあった方が、これを中止すると、1ヶ月で約9000 kcalは、摂取カロリーが減少するので、1ヶ月で、体脂肪1kgは、燃えるし、腹囲は1cm は減りますよ、充分に。という話しです。

従来の、療養指導とは違うのは、まず 自分で目標を設定してもらい、3ヶ月間は継続的に指導し、6ヶ月に成果を評価するという仕組みが組み込まれていることです。
面接、電話、電子メールなどの方法を用いて、時間制でポイントを累積していき、定められたポイトを獲得して、医療機関に報酬が支払われるということです。

あくまで、自分で目標を設定し、自己管理を通して、目標を達成するという話しなので、医療機関の指導は支援とネーミングされています。

一番、強力な支援である、積極的支援は、Aタイプ(従来の療養指導と同じく、アドバイスや更なる努力を求める)で160ポイント、Bタイプ(称賛することでやる気を上げようという支援で、従来の療養指導には乏しかったもの)20ポイントと細かく決められています。
なんとなく 机上の空論のようでもありますが、さて現実にどうなるか。

次回、更に、従来の療養指導と比較してみましょう。
  


Posted by 杉謙一 at 21:06Comments(0)診療の徒然に

2009年04月28日

◆医療の現在 メタボ考 4

“由緒正しい糖尿病”とは、血糖を維持する仕組みが、特別に障害されて生じる病態。
「正統な高血圧」とは、血圧を調節する仕組みが 特別に障害されて生じる病態。
ともに、“特別に”という点が、ミソで、他の異常はないが、そこだけが、障害されているという意味で、“特別”なのです。

例えば、普通 1回の食事で、80g 前後の炭水化物を食べているのですが、血糖値100mg/dlという糖尿病でないヒトの、血液中のブドウ糖総量は10gもないわけですから、1回の食事で、10倍以上のブドウ糖が,血液中に流入してくるという、凄まじいことが、食事のたびに繰り返されているわけです。

血糖値100mg/dl の10倍とは、血糖値1000mg/dlということですから、少し、血糖値に関心のある方には、凄まじいという形容詞の趣旨はお分かりだと思います。
そこを、うまくしのいでいるのが、血糖を維持する仕組みで、そこには、インスリンというホルモンが主役として登場します。
その肝腎のインスリンがうまく作用しないとか、充分に分泌されないということが、糖尿病の中核で、その点だけに、焦点を合わせていけば、充分に病気の管理できるというのが、“由緒正しい糖尿病”なのです。

「正統な高血圧」も、考え方は同じで、インスリンの変わりに、レニンーアンギオテンシンとか交感神経とかが登場します。

では、メタボ糖尿病とかメタボ高血圧とかは?
血糖が上昇するとか、血圧が上昇するという点では、糖尿病であり、高血圧なのですが、腹腔脂肪の蓄積が、諸悪の根元で、これから出た枝葉として、血糖が上がったり、血圧が上がったりするというのです。

従って、血糖を下げる薬や血圧を下げる薬を、使うのが治療の本筋ではなく、蓄積した腹腔脂肪を燃やすのが、治療の本筋だということになるのです。
特別に血糖を維持する仕組みが障害されていたり、特別に血圧を調節する仕組みが障害されていたりしている訳ではないので、一般的には、とても高い血糖、とても高い血圧にはならないだろうという理屈になります。

こうして、軽微な異常も拾い上げないということで、朝食前の血糖99mg/dl未満 血圧130/85未満 を正常とするという “厳しい基準”(判定される側から見ると)が設定されたのです。

“由緒正しい糖尿病”には、糖尿病独自の治療が展開されます。
「正統な高血圧」には、高血圧独自の治療が展開されます。
では、メタボ糖尿病とかメタボ高血圧には、どんな治療が 展開されるのでしょうか。

次回に続きます。
  


Posted by 杉謙一 at 06:12Comments(0)診療の徒然に

2009年04月27日

◆医療の現在 メタボ考 3

専門家である、医師達の受け取りはどうなのでしょうか。
殆どの医療機関が、遅れないようにと、健診機関の届けは済ませたのですが、スッキリした心境ではないようです。従来の医学・医療とは、かなり肌合いが違うからです。

特に、患者教育の先駆者として、苦労を重ねてきた第一線の糖尿病専門医の多くは、機械的に健診で、引っ掛けて、マニュアル通りの保健指導で、改善するなら、世話はないけど うまくいきっこないと心中では思っているのではないかと推測するのですが。

しかし、学会や大学の専門家からは、メタボリックシンドロームを取り上げる動きが出てきました。
こうした専門家は、医師の世界でのオピニオンリーダーで一般の医師に対して、一定の影響力を持っています。この場合は、“メタボ”ではなく、“Mets”という略語が使われることが多いようですが。

こうした、オピニオンリーダーの医師達が、一般の医師に砕けて、メッセージを伝える時の説明で、最近、興味を引かれたのは、以下の表現です。
「メタボ糖尿病」←→「由緒正しい糖尿病」
「メタボ高血圧」←→「正統な高血圧」
つまり 同じ糖尿病、高血圧でも2種類あるのだという説明です。

今回の、特定健診・保健指導の概容が公表された時、一般の医療関係者の間で話題になったのは、腹囲から、区別が始る滑稽さでした。
男性で85cm未満 女性で90cm未満 でかつ肥満指数(BMI)25未満なら、糖尿病、高血圧、脂質異常、喫煙習慣とフル装備でも、無罪放免なのは、おかしいじゃないかという話しです。

以前にも書いたかと思いますが、今回の健診制度は、健診する一番の目的は、保健指導の対象者を、選別することなのです。従って、選抜される側としては、どうしたら選別されずに済むかという方向に考えが向きます。
選別する時の、第一段階が腹囲なのです。
腹囲が、基準値に入り、肥満さえなければ、ややこしそうな保健指導を受けずに済むという話なのです。

例えば、糖尿病学会では、太った糖尿病の人と痩せた糖尿病の人は、同じ糖尿病でも病態が違うということは、しばしば話題になりますが、メタボリックシンドロームという概念が広く認知されたことを受けて、「太った糖尿病」と「痩せた糖尿病」が「メタボ糖尿病」「由緒正しい糖尿病」と深化したわけです。

「メタボ糖尿病」←→「由緒正しい糖尿病」
「メタボ高血圧」←→「正統な高血圧」
こうした区別はどんな意味があるのでしょうか。
次回に続きます。
  


Posted by 杉謙一 at 05:51Comments(0)診療の徒然に

2009年04月26日

◆医療の現在 メタボ考 2

こうして、鳴り物入りで、始ったメタボ健診ですが、福岡市国民健康保険の被験者(福岡市国保の保険証を持っている方)の受診率は約15%とさんさんたるものでした。

職場の健診を受けている方は、メタボ健診を兼ねているので、結果的に受けたことになります。
「おや、今度から、腹回りを測るのか。メタボっていう奴の指標なのだな」
「おや、今度から、血液検査で総コレステロールというのがなくなっているわ。これまで気にしていたのに」
「去年まで血糖106でギリギリ 合格ですと言われていた。今年は101で下がったのに引っ掛かっている。なんでだろ」
とか、少し気になったとこに、メタボ健診の余波が姿を垣間見せている程度です。

結果的に有名になったのは “メタボ”という少しばかり苦くて、すこしばかり可愛らしく そして明らかに覚えやすい3文字のみという状況かもしれません。

しかし、多数のヒトが認知するというのは、それ自体 パワーを持つことなのです。現代社会では。いや、歴史的にも、それは言えるのです。
仏教での“浄土”信仰にしても、マルクスの“階級闘争”にしても、代替慮法の“自然治癒力”にしても、単純で分かり易い言葉は、多く流布され、結果的に 大きな影響力を持つのです。

一般人の間では、日常会話で、時に メタボが登場します。
「うちの ワンちゃんも 最近メタボで困ったものよ」とか、
飲み屋では、「あんたの胴回りいくつや メタボちゃうんか。」とか、
おいしい野菜料理の店が話題になるとか。
今年の4月から、特定健診・保健指導も2年目に入りますが、次第に受診率も上昇していくのではないでしょうか。
何といっても、メタボの知名度を推進力として。
次回に続きます。
  


Posted by 杉謙一 at 06:44Comments(1)診療の徒然に

2009年04月25日

◆医療の現在 メタボ考 1

新世紀を迎えた2000年のことです。
“21世紀における国民健康づくり運動”が提唱されました。略して“健康の日本21”。
行政主導で、栄養・食生活身体活動 休養・こころの健康づくりを取り上げて、国民の健康づくりを目指しました。
単なるスローガンには終わらせないぞと 具体的な数値目標まで定めました。

例えば、2000年の男性の1日の平均歩行数8,202歩を2010年には9200歩以上という具合の数値目標を定めたのです。

しかし、途中で、達成状況を、チェックしてみたところ、成果はもう一つでした、中年男性の肥満者の割合は、減るどころか、増える有様でした。

他方、1990年代から、内臓脂肪が、諸悪の根元ではないかという考えが出てきました。
人間の身体の20―30%は脂肪です。
体脂肪が多くなる状態を“肥満”と医学的には定義しています。
この脂肪には、皮膚の下(皮下脂肪)と腹腔内(内臓脂肪)に大別され、悪さをするのは、内臓脂肪の方だというのです。
体脂肪というのは、医学的には、脂肪細胞に中性脂肪が溜め込まれ、1個1個の脂肪細胞が、風船のように膨らんだ状態です。

従来は、体脂肪は、カロリーの出入りの、残高だと軽視されていました。
身体活動で出て行くカロリー以上に、食べてカロリーを摂取すると、収入過多となり、残高が増えた分が、脂肪細胞に貯蓄されると理解されていたのです。
しかし、現代医学の観点から、改めて見直すと、様々な生理活性物質を分泌して、身体の代謝状態に、大きな影響を与え、結果的に血糖の上昇、血圧の上昇、中性脂肪の上昇 などを引き起こし、引いては血管病を生じるという、考えが優勢になったのです。

医学は、元来、原因―結果という思考法 因果論への執着があります。
腹腔内の脂肪蓄積が、“代謝の歪み”の源流にあるという考えから、“代謝症候群”が2005年、医学会の総意として提唱されました。

“代謝症候群”→“metabolic syndrome” →“メタボロック・シンドローム”です。

“健康の日本21”に、息を吹き込んで、健康づくりを再構築したいという保健行政の意向と、学会からの“代謝症候群”という病態概念が、融合して、“メタボロック・シンドローム”をメタボと噛み砕いて、メタボキャンペーンが展開され、これはかなり成功しました。

健康の日本21と異なって、誰もが知る言葉になったのです。

腹囲を測定するというのも、一定の反発を伴いながらも、自分の身体への新たな情報として、興味を引きました。
従来は、身長・体重・血圧 で せいぜい体脂肪でしたから。

こうして、2008年度から、特定健診・特定保健指導が、法律で、保険者の義務とされたのですが、これもメタボ健診という愛称で、広く知られています。
いかに、ネーミングが重要であるかを示す一例かもしれません。
次回に続きます。
  


Posted by 杉謙一 at 05:32Comments(0)診療の徒然に

2009年04月24日

◆医療の現在 余所行きの医療と普段着の医療 7

医師:「○○さん。今日のヘモグロビンエーワンシーは9%! とても高いです。最近では7%を切ることは、当然として、6%の前半を目指そうと言っている時代ですよ。」
○○さん:「いや 3月 に入って、歓送迎会やら接待やら 飲む機会が多くて」
医師:「何を言ってるんですか。ご自分の身体のことですよ。ヘモグロビンエーワンシー9%というのは、一口で言えば、身体の全部の細胞が、朝から晩まで、砂糖漬け状態だということですよ。今、この瞬間も、体中の血管が蝕まれているのですよ。」
○○さん:「痛くも痒くもないんですがね。口も渇かないし。」
医師:「そこが糖尿病の怖さなのです。痛くも痒くもないが、次第に蝕まれ、気がつくと、眼は見えなくなるは、腎臓は駄目になるは、足は切断の破目になって・・」

その日、自宅に帰った○○さん。奥さんに曰く
「いやー 今日は病院で、医者に脅かされてね。」

合併症の恐怖を強調するという、余所行きの医療が、揺さぶりとしては、充分な効果を挙げなかったケースです。

別の診察室での光景
医師:「○○さん。今日のヘモグロビンエーワンシーは9%です。一ヶ月前は8%だったので、1%上昇しています。」
○○さん:「いや 3月 に入って、歓送迎会やら接待やら 飲む機会が多くて」
医師:「そうですか。大変でしたね。そのことについて、一緒に考えてみましょう。どの位、飲み会があったのかを思い出していただけますか?」
○○さん:「3月に1回、4月になって2回ですか」
医師:「たいした ことないじゃないですか」
○○さん:「そうですよね。でもなんで、1%もあがるんだろう。」
医師:「そうですよね。もう少し、毎日の、○○さん の生活習慣を、具体的に教えていただきたいですね」
と対話が続きます。

その日、自宅に帰った○○さん。奥さんに曰く
「イヤー、今日は病院で、医者に根掘り葉掘り聞かれてね。」
前者を余所行きの医療、後者を普段着の医療とすると、ともにヒトに肉迫し、暮らしを変容させることには到っていないようです。
治療関係で、揺さぶりをかけるのは、なかなかの難事なのです。
  


Posted by 杉謙一 at 06:16Comments(0)診療の徒然に

2009年04月22日

◆医療の現在 余所行きの医療と普段着の医療 6

そもそも、医学・医療の原イメージには、奇跡を呼ぶ魔法の杖を振るうという部分がつきまとっています。
名医や神の手を持つ脳外科医は、ただのオジサン、オバサンでは困るのです。

後光がさすと昔は言っていました。
最近では、「オーラがある」と表現するようですが、普段着を超えたなにかが 漂っていないと、医療における効果は発現しないのではないかとさえ思えるほどです。
オーラは、見られる人と見る人の関係の中で顕れます。
医療におけるオーラは、患者―医師関係の中で顕れます。

ヒトは、普段、様々な場で様々な刺激に反応しながらなんとか、やりくりして、日々生きています。やりくりが。滞り、心身の不調を自覚した時、医療機関を訪れます。
そこで、問診―診察―検査―投薬・処置 などの通常の医療を受ける裡に、患者―医師関係が、生じます。こうして、滞りが、解かれ 再び、日常が流れ始めると 治ったということです。

この時、薬が効いたと一般に解釈されていますが、薬効もさることながら、患者と医師の出会いから始る、一連のプロセスが、患者の滞りに、一定の揺さぶりをかけ、治癒への、引き金を引くのです。

勿論、揺さぶりが悪化への引き金を引く時もあります。
補完・代替療法の一部では、“好転反応”という言葉が、用意されていて、これらの療法を受けて、不快な症状が出現したら、良くなる前の徴候だと、説明しています。
近代医療では、副作用、副反応、有害事象などとそのままに表現していて、良くなる前の徴候などと注釈はつけません。

余所行きの医療であろうが、普段着の医療であろうが、患者にとっては、医療とのかかわりの中で、揺れ、治癒への方向へ引き金が作動したらいいのです。
医師にとっては、余所行きと普段着の混じり具合を、いつも念頭におき、両者のブレンド比を加減しながら、治癒への促進を探るということかもしれません。
余所行きの医療と普段着の医療、この両者は、どちらが、強い揺さぶりになるのでしょうか。
次回に続きます。
  


Posted by 杉謙一 at 07:03Comments(0)診療の徒然に

2009年04月21日

◆医療の現在 余所行きの医療と普段着の医療 5

糖尿病の方の食事指導の光景。糖尿病患者さんと管理栄養士の会話です。

管理栄養士:「○○さん、最近、ヘモグロビンエーワンシーという血糖コントロールの指標が9%と高いので、担当医師からの指示で、栄養指導させていただきます。管理栄養士の△△です。よろしく。」
○○さん:「よろしく」
と、始まり、栄養士は食べたものの実際を知ろうとします。

○○さんは、用心深く 食生活の一部を開示します。洗いざらい話すと食べる快楽を制限されるのではないかと 本能的に防衛反応が働くのです。  
例えば・・・
○○さん:「私も、食事には、充分、注意しているのです。先生からも野菜・海草・きのこ と耳にタコができるほど言われてますからね。生野菜なんかも。丼 一杯という感じでね」

△△栄養士:「生野菜は、そのまま 食べてるんですか?」
○○さん:「鳥じゃ あるまいし マヨネーズくらいかけますよ」
△△栄養士:「そこが 問題なのですよ。○○さん、大さじ1杯のマヨネーズのカロリーをご存知ですか?」
○○さん:「知りません」 (また、カロリーか、うんざりだな)と心中での独白
△△栄養士:「100キロカロリーもあるんですよ!」 
○○さん:「エ、そんなに」
と○○さんは調子を 合わせますが、もう 良い患者を演じるモードに切り替えています。

△△栄養士は詳細に栄養指導のレポートを記載し、指示を出した医師に報告します。
医師も 「なるほど マヨネーズが問題だったのか?」と納得。
こうして、1件落着したのですが。

しかし、ついに、自宅で、奥さんと口論しながら、ケーキやどら焼きに執着する、○○さんの普段の姿を語ってもらうとこには辿り着けないのです。
普段着の姿に、辿り着くのには、患者も医療者も、まだまだの現在のようです。
次回に続きます。


○○さんのヘモグロビンエーワンシーが、少しでも改善すればいいのですが。
次回に続きます。
  


Posted by 杉謙一 at 06:14Comments(0)診療の徒然に

2009年04月20日

◆医療の現在 余所行きの医療と普段着の医療 4

これまでのことを復習してみます。
医学という学問にとって、一人の患者は1個のデータです。
データとしての条件が整っていることが何より大切。

医療は,人(患者)と人(医師)の出会いから始るサービス業。
しかし、医療は医学の威光を背負っているから、有り難味がある。
その医学(近代医学)は、屍体解剖に出自を持ち、筋金入りで、サービス業であることを求められる医療との接続に戸惑う。  患者も医師も

しかし、生産力が飛躍的に増大し、サービス供給者が過剰となり、もてなしの良さやお客様第一の今の世の中、医療の戸惑いが大きくなっています。
ここから、余所行きの医療と普段着の医療問題が、出てきているのかもしれません。

ある病院のホームページで“胃カメラ検査を受ける患者様へ”という蘭を見つけました。その一部です

“内服中の薬は休薬です。 検査終了1時間後に服用。
糖尿病の薬は,検査当日は休薬です。飲まないでください
血液をサラサラにする薬は1週間前より休薬が必要です(ワーファリン、バイアスピリン、バッファリン、パナルジン等)
検査後、約1時間以内は喉の麻酔が残っていますので、水分・食事を取らないでください。“

以前に比べると、随分親切です。文書にもなっています。
しかし、一人一人の“患者様”はいろんな疑問を持つかもしれません。
この説明書を渡された、鈴木さんの独白です。

「検査が終了して、1時間すると、食事をして、食後に朝の薬を飲めという意味だろうな。今、自分ももらっている薬は、食事の直前に飲むことになっている。
長くかかっている糖尿病の医者は、『○○さん。この薬を食べる直前に飲むと、食べた後の血糖が上がるのが、抑えられて、効果があるのです。ただ、どうしても、飲み忘れるので、箸に予め薬をつけておいてね、箸はいやでも持つでしょうから、その時に気づいて薬を飲めばいいですよ』と言っていたよな。この説明書だと、今日1日は、この薬は飲まないことになっているが、そうすると、食後の血糖は3回上がるよな、本当にいいんだろうか」

また別の田中さんの独白です。
「自分は、以前心筋梗塞を 起こして、病院の循環器科の先生のお陰で一命をとりとめ、現在も血液サラサラの薬をもらっている。循環器科の先生は、『田中さん、この薬を3日間飲まないと、血がドロドロになって、また血の塊が、心臓の血管に詰まって、大変なことになるかもしれんから、ちゃんと飲んでね』といつも言っているけど、1週間も止めて本当に大丈夫なんだろうか。」

建前論で押しきっていた、余所行きの医療から、現状を知ってアプローチする普段着の医療に 変えていくと、パンドラの箱を開けたように、様々な疑問が噴出すようです。
次回に続きます。
  


Posted by 杉謙一 at 06:19Comments(0)診療の徒然に

2009年04月18日

◆医療の現在 余所行きの医療と普段着の医療 3

多分、患者にならないで一生を終わることを、希望している方が多いでしょう。
しかし、現代の病気は、老化と連れ添っているので、加齢とともに、いやでも医療のお世話になる方が大部分です。

そして、人生の締めである、死亡診断書を書けるのは医師のみです。
よほどの人を 除いて、大部分の人が医療のお世話にならざるを得ない現在です。

近代医学の誕生において屍体解剖が、重要であったことは、よく知られています。屍体解剖によって、人体の構造を観察できるようになったことが、近代医学の基礎になりました。他方、死体は、普通の人にとって、恐怖や畏怖などのオドロオドロしい原始的感情を喚起します。

医学部の学生が、解剖実習を経験する時、初めは、一般人として、死体を見て、感情の動揺を経験するが、屍体解剖のカリキュラムの進行とともに、客観的に、クールに死体を解剖・観察することを通して、医師としてのアイデンティティを確立する。
すなわち医学生にとっての屍体解剖は、医師に成るための“通過儀礼”なんだという説もあるようです。
余所行きの医療の根っこには、こうした問題があるようにも思うのですが。

採血の時に、“飲まず食わずで”というのは、どういう趣旨なのでしょうか。検査結果の判定をするさい、条件を揃えるということからきているのです。
“困りごと”があって、医療の場で、それを相談しようと決断し、病院の門をくぐった瞬間、ヒトは“患者”に変貌するわけですが、“患者”が意味することの一つが、“被験者”(検査をされる人)になるということです。
つまり、血液検査のデータとなるわけです。

例えば、血糖130mg/dl という1個のデータです。この得られたデータを、判定する場合、どれくらいの時間、食事をしなかったのかということで、変わってくるわけです。
10時間以上、食事をしないで130mg/dlなら糖尿病、食後1時間なら、正常というように。

別の例として、胃カメラ検査があります。これも、「検査の前日は、夜9時以降 食事は取らないでください」となっています。
夜9時以降食事を取ると、胃カメラ検査の時に、食物が、胃にへばりつき、胃の粘膜を充分観察できないおそれがあるというわけです。

胃カメラ検査を受ける方で、普段から薬を飲んでいる方もあります。
最近は、食前に飲む薬も増えてきましたが、大部分の薬は、食後30分に飲むことになっています。
「そうすると朝食後の薬はどうなるのだろう?」ということになります。

以前の医療は、こうした問題に対して、無頓着な傾向がありました。とにかく、大事なのは、検査時に胃が空っぽで、胃の粘膜を、観察できるようにすることだと。
患者さんの自己判断に任されていたり、たまたま聞くと、聞かれた医療スタッフが、適当に答えるという世界でした。
とにかく、大切なのは、観察される胃をきれいにしておくこと。

最近は、医療側も、丁寧になり、胃カメラ検査を受ける患者様へといった文書を渡すように変わってきました。
検査をする側の都合ではなく、検査をされる側の立場を配慮するようになったのです。患者はデータ提供者に過ぎないという考え方から抜け出し、余所行きの医療からの変わってゆく徴候かもしれません。

次回につづきます。
  


Posted by 杉謙一 at 06:42Comments(0)診療の徒然に

2009年04月17日

◆医療の現在 余所行きの医療と普段着の医療 2

電話で相談された方は、検査は朝 一番、飲まず食わずで、薬も飲まずにする という信念があったようです。
医師の、「食べずに来ても、食べて来てもいいですよ」という言い方は、相談者にとって、いい加減で、もう一つ信用できないものに受け取られたのかもしれません。

「もう一つだな」という相談者の直感が、相談者から患者に変貌する決意を押し止めたのです。
この相談者にとって、医療は“余所行きの医療”として、定着しているようです。

私は、ある時期、所謂 “後期高齢者”すなわち75歳以上の方を外来で、多数、長期に診ていた時期がありました。
お互いに打ち解けた関係になった方も多かったのですが、一部の方は、診察室での血圧が家庭血圧(自宅の血圧計で測定した血圧)より高いという現象がありました。
白衣高血圧として広く知られた現象です。

白衣現象には、再現性がありました。つまり、○○さんは、家庭血圧に比べて、診察室での血圧は、収縮期血圧(上の血圧)がいつも20前後高いというように。

既に、リタイアして、月1回の病院受診が、毎月の重要なイベントという方も多かったので、受診の時間も、○○さんは午前10時頃とほぼ一定していました。

ご存知の方もあるでしょうが、血圧の値は、1日の周期でも変動します。例えば、早朝に血圧が急上昇する早朝高血圧とか。
そういう点でも、いつも午前10時頃ごろ、受診して、いつも(収縮期の)診察室血圧が家庭血圧より20前後高いという、現象は、本当らしいと確信が持てました。

ある時、○○さんと話していて、受診の前日は、“明日は病院に行く日だから”と早めに床について、受診日は、早く目覚めることを教えてもらいました。
「少し、緊張しているのか、夜中にも数回、目が覚めるんです。しばらくするとまた寝るのですがね」

その時、思ったのです。ああ。これは 余所行きの医療だな と。

飲まず食わずで、病院に行き、長時間待たされて、採血され、審判を拝聴するといういイメージと、○○さんの、受診前日からの、緊張とか身構えは似ています。
“余所行きの医療”と表現すると、うまく、括れそうです。

なんでも相談できるクリニック
気軽に受診してください
あなたの家かかりつけ医

最近の診療所のコンセプトです。
余所行きの医療に対して普段着の医療のイメージです。

一般の人は、どちらを望んでいるのでしょうか?

次回に続きます。
電話で相談された方は、検査は朝 一番、飲まず食わずで、薬も飲まずにする という信念があったようです。
医師の、「食べずに来ても、食べて来てもいいですよ」という言い方は、相談者にとって、いい加減で、もう一つ信用できないものに受け取られたのかもしれません。

「もう一つだな」という相談者の直感が、相談者から患者に変貌する決意を押し止めたのです。
この相談者にとって、医療は“余所行きの医療”として、定着しているようです。

私は、ある時期、所謂 “後期高齢者”すなわち75歳以上の方を外来で、多数、長期に診ていた時期がありました。
お互いに打ち解けた関係になった方も多かったのですが、一部の方は、診察室での血圧が家庭血圧(自宅の血圧計で測定した血圧)より高いという現象がありました。
白衣高血圧として広く知られた現象です。

白衣現象には、再現性がありました。つまり、○○さんは、家庭血圧に比べて、診察室での血圧は、収縮期血圧(上の血圧)がいつも20前後高いというように。

既に、リタイアして、月1回の病院受診が、毎月の重要なイベントという方も多かったので、受診の時間も、○○さんは午前10時頃とほぼ一定していました。

ご存知の方もあるでしょうが、血圧の値は、1日の周期でも変動します。例えば、早朝に血圧が急上昇する早朝高血圧とか。
そういう点でも、いつも午前10時頃ごろ、受診して、いつも(収縮期の)診察室血圧が家庭血圧より20前後高いという、現象は、本当らしいと確信が持てました。

ある時、○○さんと話していて、受診の前日は、“明日は病院に行く日だから”と早めに床について、受診日は、早く目覚めることを教えてもらいました。
「少し、緊張しているのか、夜中にも数回、目が覚めるんです。しばらくするとまた寝るのですがね」

その時、思ったのです。ああ。これは 余所行きの医療だな と。

飲まず食わずで、病院に行き、長時間待たされて、採血され、審判を拝聴するといういイメージと、○○さんの、受診前日からの、緊張とか身構えは似ています。
“余所行きの医療”と表現すると、うまく、括れそうです。

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最近の診療所のコンセプトです。
余所行きの医療に対して普段着の医療のイメージです。

一般の人は、どちらを望んでいるのでしょうか?

次回に続きます。
  


Posted by 杉謙一 at 05:20Comments(0)診療の徒然に

2009年04月15日

◆医療の現在 余所行きの医療と普段着の医療

或る日の午後、閑古鳥が鳴いている時、電話がかかってきました。

相談者:「もしもし、先生ですか?」
医師:「ハイ、当クリニックの○○ですが、」
相談者:「実は、先生 私、10年以上前から、糖尿病と言われてるんです。」
医師:「そうですか。大変ですね。」

相談者:「病院の方には、行ったり、行かなかったりで。1回 お宅にお邪魔したいんですが」
医師:「受診ということですね。どうぞ、どうぞ。」

相談者:「ところで、朝 1番に伺いたいのですが、飲まず食わずで、薬も飲まずに行くのでしょうね。」
医師:「食べずに来ても、食べて来てもいいですが、糖尿病の薬とか、血圧の薬は飲んでらっしゃるのですか?」
相談者:「両方 飲んでいます。」
医師:「ということは、最近はどこかに通院中なのですね。」
相談者:「・・・」

医師:「いいですよ。とにかくいらしてください。薬のことを聞いたのは、飲まない為に、血圧が上がったり、食べないために血糖が下がったりという危険が心配だから、言ったのですが。 インスリンはしていないですね。」
相談者:「していませんよ! インスリンなんか。」

相談者:「これまで、飲まず食わずで、薬も飲まずに来るように言われる病院が多かったのですが・・」
医師:「大丈夫です。どちらでも。それなりに、いろんなことが分かりますし、今後どうしたらいいかの相談にものれますから。」
相談者:「わかりました。近く伺います。」
医師:「はい。お待ちしています。」

十分に時間があったので、詳細に話をしているうちに、微妙な食い違いを感じました。
結局、相談された方は見えませんでした。

次回に続きます。
  


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2009年04月14日

◆医療の現在 テーラーメイド医療 6

最初のインフルエンザの例、コンシエルジュ的な意味でのテーラーメイド医療を私なりに想定した例を再度 書きます。
問診と診察で、医師がインフルエンザらしくないと判断したにもかかわらす強く検査を希望したケースです。

医師:「インフルエンザはね。ちょっと考えにくいのです。」
   「この 資料を見てください。突然の発熱、だるさ、ふしぶしの痛みなどの全身の症状、鼻水、咽の痛みなどの上気道症状です。あなたに起こったこととは違いますよね。」
患者:「いや、とにかく検査を。」

医師:「検査自体は簡単で、8分で結果が出ますが、鼻から綿棒を入れられて、少し不快だし、お金もかかりますよ」
患者:「検査は子供がしたので、よく知っています。お金もかまいません。」

医師:「でも 考えにくいんだけどな。もし、インフルエンザの予防接種をしたのだったら、症状が軽くでるということも考えられるけどね・・・」
 暫しの間を置いて
患者:「実は、家内がうるさくて。必ず検査してもらってこいって」

患者(夫)と妻との関係、以前、学校を休みがちで、不登校になるのではないかと心配していた小学生の子供が、最近漸く、毎日登校し始めたので、ここでインフルエンザにでもなってペースが崩れたら大変だという危機感、メディアから発信される、インフルエンザに関する様々な情報、こうした色んな事情が複合され、「あなた、絶対検査受けて、ちゃんと結果表をもらってきてよ。いつものようないい加減なことで誤魔化さないでよ。今回ばかりは」という、妻の強い口調の言葉を背に受けて、男性は患者として、医師の前に現れたのです。

保険診療は、保険者との契約に基づいているのは、ご存知だと思います。自由診療との違いです。
契約では、“保険医療養担当規則”に従って、診療することになっています。ということは、“保険医療養担当規則”に従わない医療については、契約上、保険者は支払いを拒否できるということです。

保険医療養担当規則14条に、“保険医は、診療に当たっては常に医学の立場を堅持して、患者の心身の状態を観察し、心理的な効果を挙げることができるよう適切な指導をしなければならない。”と書いてあるのは、以前紹介しました。

医学の立場を堅持すれば、医師は「検査は不要です」と押し返すことになります。
しかし、8分間で、結果のでる、検査で、陰性の結果報告書を、家庭に持って帰れば、患者の家族には、一時の平安が訪れるのです。

現在、様々な領域に医療が浸透しています。
例えば、末期のがん、虚弱化し、認知障害のある高齢者、こうした分野では、緩和的医療・ケアが強調されています。
緩和的医療・ケアは、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛を緩和する、最後に霊的苦痛を緩和すことを目指します。
ギリギリのところでのヒトの生きる意味について支援する医療。

そうした場所で、コンシエルジュ的な意味でのテーラーメイド医療はなにをするのか。
“医学の立場を堅持する”とは、どうすることか。
次々と難問が出現する医療の現在です。
  


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2009年04月13日

◆医療の現在 テーラーメイド医療 5

バイオテクノロジーの成果を臨床に応用するという意味での“テーラーメイド医療”という言葉はわかりやすいと思います。
「PET検査で体内に密かにできていたガンが一発で分かる! しかも苦痛も危険もない検査!」
「日帰りで、できる白内障手術! 手術の後から世界が違って見える!」
「○○に効く 夢の新薬登場!」
医学関係では、絶えず激しい競争が、繰り返され、新しい薬や医療技術が、認可されると、“素晴らしい××”、“夢の○○”という、メッセージが、世間に発信されます。
製薬業界では、“ピカ新”という業界用語があるそうです。画期的新薬のことです。
新規性・有用性が高く、従来の治療体系を大幅に変えるような独創的医薬品で、化学構造も従来の医薬品と基本骨格から異なるものを“ピカ新”と呼ぶのだそうです。
分子生物学に基づく、バイオテクノロジーの成果を、薬ではなく、薬を服用するヒトに応用して、薬の適用の可否を判断するという点で、“テーラーメイド医療”という言葉が使用されたのですが、「夢の医療技術です!」というコンセプトは同じなのです。
勿論、個々の医療機関が、夢の治療 云々 と宣伝するわけではありません。
従来から、医療機関は、“広告・宣伝して顧客を誘引”することは、禁じられていますから。しかし、もっと、大きなレベル(企業 学会 メディア)を通じて、こうした情報が発信されます。多くの専門家がかかわっているので、一部の怪しげな、健康法などに比べると、比較にならにほど、高品質で精度の高い情報ですが、病気で切羽詰っている方が、なにはともあれ飛びつきたくなる という構造は、同じです。
ブームの後には、熱が冷め、時の評価に耐えたものは、オーソドックスな医療として、定着します。医療の歴史そのものでもあります。
ファーマコゲノミックスという画期的技術に基づく、テーラーメイド医療も、時を経て、一定のポジションに落ち着くでしょう。
思うに、難しいのは、後者の方ではないでしょうか。
顧客満足度(患者様満足度)が高い医療を提供するという意味での、テーラーメイド医療です。
次回に続きます。
  


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2009年04月11日

◆医療の現在 テーラーメイド医療 4

語源から考えると、テーラー(tailor)は、服の仕立屋の意です。仕立屋が、顧客の注文に応じて服を仕立てる時、まず身体計測から始めます。
他方、既製服は、頻度の多い体型を数種類想定して、大量生産し、コストを削減します。ピッタシ、身体にフィットしなくても その分、廉価だからいいよねという世界です。
身体計測に相当するのが、個々人の“遺伝子多型”を予め測定しておくことなのです。

診察室での会話 パターンA
医師:「進行した肺癌で、手術による根治は不可能です。放射線療法も生存率を改善しないと言われています。 ○○という抗がん剤があります。但し、二つ問題があります.一つは、効く人と効かない人がいること もう一つは副作用が出る人と出ない人がいることです。効いて、副作用が出なければとても幸運です。効かなくて副作用が出れば最悪です。どのパターンかは あなたの“体質”によります。予測は困難です。○○を使いますか?」
患者:「・・・」
診察室での会話 パターンB
医師:「進行した肺癌で、手術による根治は不可能です。放射線療法も生存率を改善しないと言われています。 ○○という抗がん剤があります。但し、二つ問題があります.一つは、効く人と効かない人がいること もう一つは副作用が出る人と出ない人がいることです。効いて、副作用が出なければとても幸運です。効かなくて副作用が出れば最悪です。どのパターンかは あなたの“遺伝子多型”によります。これを検査して、あなたの“遺伝子多型”を検査すれば、薬への反応をある程度予測することができます。とりあえず検査してみますか?」
患者:「先生 是非 お願いします!」
以上の対比が、テーラーメイド医療の近未来イメージです。

話しが変わりますが、高齢社会を迎えて、一人暮らしや老夫婦での生活が困難となる方が増えています。
食事付き、風呂付、場合よっては介護付きのアパートに入らざるを得なくなります。生活が困難になった高齢者が、落ち着く先が、おそろしいくらい ピンキリなのようです。
ピンとキリの差が大きいのです。
ピンの方には、入居金が億に近い高級有料老人ホームがあります。依然、東京の高級有料老人ホームの豪華な案内のパンフレットが印象的でした。高級なマンションの概観を背景として、コック服を着用してシェフと白衣を着た医師が並んで立っているのです。お客様をお出迎えするという雰囲気で。最近、流行の“コンシエルジュ”というヤツです。日本人の好きな、フランス語発の日本語で、本来、集合住宅の管理人の意味らしいのですが、最近、日本で流行っている“コンシエルジュ”は「よろず相談承り係」のノメージでのようです。今回、コンシエルジュの語源を調べていて、ラテン語の“servus”という説があることを知りました。ちなみに“servus”は奴隷のように仕えるという意味だそうです。
つまり、お客様のよろず相談に応じる、にこやかな事情通というイメージのようです。なかなかありえないような。我儘をいち早く察知して、奴隷のように、奉仕するというイメージでしょうか。
テーラーメイド医療のもう一つのイメージです。
つまりテーラーメイド医療は、バイオテクノロジーの成果を臨床に応用するという意味と、顧客満足度(患者様満足度)が高い医療の提供を提供する という二様の意味が交じり合っていたわけです。
1回目に書いた “2)テーラーメイド医療”の例は、後者の世界だったのです。
次回に続きます。
  


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2009年04月11日

◆医療の現在 テーラーメイド医療 4

話しが変わりますが、高齢社会を迎えて、一人暮らしや老夫婦での生活が困難となる方が増えています。
食事付き、風呂付、場合よっては介護付きのアパートに入らざるを得なくなります。生活が困難になった高齢者が、落ち着く先が、おそろしいくらい ピンキリなのようです。
ピンとキリの差が大きいのです。
ピンの方には、入居金が億に近い高級有料老人ホームがあります。依然、東京の高級有料老人ホームの豪華な案内のパンフレットが印象的でした。高級なマンションの概観を背景として、コック服を着用してシェフと白衣を着た医師が並んで立っているのです。お客様をお出迎えするという雰囲気で。最近、流行の“コンシエルジュ”というヤツです。日本人の好きな、フランス語発の日本語で、本来、集合住宅の管理人の意味らしいのですが、最近、日本で流行っている“コンシエルジュ”は「よろず相談承り係」のノメージでのようです。今回、コンシエルジュの語源を調べていて、ラテン語の“servus”という説があることを知りました。ちなみに“servus”は奴隷のように仕えるという意味だそうです。
つまり、お客様のよろず相談に応じる、にこやかな事情通というイメージのようです。なかなかありえないような。我儘をいち早く察知して、奴隷のように、奉仕するというイメージでしょうか。
テーラーメイド医療のもう一つのイメージです。
つまりテーラーメイド医療は、バイオテクノロジーの成果を臨床に応用するという意味と、顧客満足度(患者様満足度)が高い医療の提供を提供する という二様の意味が交じり合っていたわけです。
1回目に書いた “2)テーラーメイド医療”の例は、後者の世界だったのです。
次回に続きます。
  


Posted by 杉謙一 at 05:50Comments(0)診療の徒然に

2009年04月08日

◆医療の現在 テーラーメイド医療 3

2002年7月から世界に先駆けて、使用可能となったイレッサは、話題になり、藁をもすがる末期の非小細胞肺癌の方が、殺到しました。一部の方は明らかな効果があり、肺癌が退縮しました。しかし一部の方には間質性肺炎という手強い副作用が出現し、そのために死亡した方もありました。
イレッサのブームは、終わりました。あたかもバブルがはじけたように。
イレッサは、分子標的抗癌剤と呼ばれる一群の薬の一つです。従来の、抗癌剤が、癌細胞を攻撃すると同時に、正常細胞も傷つけるので副作用も激しいことはよく聞かれると思います。イメージとしては、絨毯爆撃をしているようなもので、気がついたら、肝腎の患者の命が絶えていたというわけです。
分子標的抗癌剤は、言わばピンポイントで癌細胞を攻撃するという薬です。
癌細胞の発生、増殖の仕組みが分子のレベルでかなり解明されたという分子生物学の進歩に支えられているのです。
個々の患者で、効く、効かない、副作用がでる、出ない こうしたことが、予め予測できたら・・。
癌細胞の仕組みの解明は、実はヒトゲノム計画と表裏の関係にあります。
ヒトゲノム計画という言葉を耳に「した方も多いと思われますが、ヒトの30億塩基対のゲノム情報を全て、解読してしまおうというプロジェクトで1990年に始まり、2004年10月に正式に完了しました。
因みに、ゲノムとは一人の人間の遺伝情報の総体で、それは30億個の対になって細胞の核の中に入っています。いわゆるDNAというヤツです。
ヒトゲノム計画をオモテとすれば、ウラでは、癌細胞の発生、増殖の仕組みが分子のレベルで解明されていて(使われる分子生物学の知識・技術は共通しています)、その成果の一つが分子標的抗癌剤だったというわけです。
しかし、実際に末期の非小細胞肺癌にイレッサを使用してみると明らかに効果がある方もあれば、ない方もある。吐き気、脱毛、骨髄抑制のような、従来の絨毯爆撃の抗がん剤の定番の副作用は軽微だが、突然の間質性肺炎で、死亡した方も出たのです。
ヒトゲノム計画で解明された遺伝子情報をもとに薬の効果、副作用の予測ができないか。
ヒトゲノム計画が完遂した時、この成果は地図の完成に喩えられました。
バイオビジネスの世界では、「遂に地図が手に入った! 地図を片手に宝探しをしよう!」と色めき立ちました。
宝探しの実際が、“ゲノム創薬”と“ファーマコゲノミックス”と呼ばれる分野です。
現在、バイオビジネス界で、激烈な競争が行われている分野だと聞いています。
“ゲノム創薬”は、分子生物学の知識・技術を背景として、新しい作用機序の薬を創ること。
“ファーマコゲノミックス”は、個々の患者の遺伝子情報から薬の作用と副作用の予測をすることです。
テーラーメイド医療という口当たりのよい言葉の背景には、バイオビジネスの生き残り競争があったのです。
次回に続きます
  


Posted by 杉謙一 at 06:59Comments(0)診療の徒然に

2009年04月07日

◆医療の現在 テーラーメイド医療 2

医師:「インフルエンザはね。ちょっと考えにくいのです。」
   「この 資料を見てください。突然の発熱、だるさ、ふしぶしの痛みなどの全身の症状、鼻水、咽の痛みなどの上気道症状です。あなたに起こったこととは違いますよね。」
患者:「いや、とにかく検査を。」
医師:「検査自体は簡単で、8分で結果が出ますが、鼻から綿棒を入れられて、少し不快だし、お金もかかりますよ」
患者:「検査は子供がしたので、よく知っています。お金もかまいません。」
医師:「でも 考えにくいんだけどな。もし、インフルエンザの予防接種をしたのだったら、症状が軽くでるということも考えられるけどね・・・」
 暫しの間を置いて
患者:「実は、家内がうるさくて。必ず検査してもらってこいいって」
医師は、この この答えをある程度予測していたので、ただちに検査に取り掛かりました。

医師の心中での 独白『保険医療養担当規則に照らしたらどうなるのかな。保険医療は保険者と医療機関の契約に基づく現物給付で、規則に基づいて給付する契約だからな。第14条には【保険医は、診療に当たっては常に医学の立場を堅持して、患者の心身の状態を観察し、心理的な効果を挙げることができるよう適切な指導をしなければならない。】と書いてあるよな。医学の立場を堅持したら、検査すべきでないし、心理的な効果を挙げるには検査した方がいいし・・』

検査は、インフルエンザA B ともに陰性でした。
検査結果のコピーと処方箋を持って、診察室を後にした、男性には、インフルエンザA B
マイナスの検査結果のコピーの方が、処方箋より大切だったようです。

ここまで読んで、このケースは、テーラーメイド医療とは違った例示ではないかと思われた方もあると思います。最近、話題になっているのは 遺伝子多型に発したテーラーメイド医療なのです。
イレッサという薬があります。
「手術不能または再発性非小細胞肺癌」に効果があるとされる薬です。2002年7月から販売されました。
肺癌は、難治癌の代表です。癌は、いまや半分の方が治る時代なので、かってのように癌=死に至る病 というイメージは変わりつつあります。
しかし、他方 日本人の3人に1人が癌死しており、やはり癌は死を喚起する病です。難知性の肺癌はその典型です。
手術不能または再発性ということは、末期状態であるということです。難知性の末期状態の癌に効く薬だというのです。藁をもすがる心境の末期肺癌の方は、いやでも引きつけられます。どうなったのでしょうか。
次回に続きます。
  


Posted by 杉謙一 at 06:29Comments(0)診療の徒然に

2009年04月06日

◆医療の現在 テーラーメイド医療 1

最近、テーラーメイド医療とかオーダーメイド医療とかの言葉が、メディアに登場してくる頻度が増えています。
オーダーメイドは、以前から服を作る時に使用された言葉だと思います。既製品ではなく、本人の身体計測、年令、好み、服を着用する趣旨などを情報収集して、本人にとって満足度の高い服を作成するという意味のようです。オーダーメイドの高級版がオートクチュールということになるのだそうです。
テーラーメイド医療の対義語がレディーメイド医療とか画一医療とかになります。
ありふれた病気である風邪(風邪症候群)で、両方の診療をイメージしていみます。

1)レディーメイド医療
医師:「どうしました。」
患者:「3日前から、調子が悪くて。」
医師:「どう 調子が悪いの」
患者:「昼過ぎから咽が痛くなって、夕方 会社を出ると、ゾクゾクして、その日は夕食を食べて、早めに寝たのですが、翌日 起きると鼻水も出て、食欲も少し落ち気味で、朝から37.2度あったので・・」
医師:「なんだ、風邪じゃないか。じゃあ、風邪薬 出しとくから。お大事に」
 患者の、長い話に、イライラした医師は待ちきれず1件 落着させてしまいました。
この病院では、風邪に対する、約束処方が作ってあるので 風邪1に○をつけて処方終了です。風邪1 風邪2 風邪3 と三つあって、軽い風邪―風邪1 中等度の風邪―風邪2重い風邪―風邪3 と処方することになっているのです。

2)テーラーメイド医療
医師:「どうしました。」
患者:「3日前から、調子が悪くて。」
医師:「調子悪いんですか、どんな風に?」
患者:「昼過ぎから咽が痛くなって、夕方 会社を出ると、ゾクゾクして、その日は夕食を食べて、早めに寝たのですが、翌日 起きると鼻水も出て、食欲も少し落ち気味で、朝から37.2度あったので・・」
医師:「途中で口を挟んで 申し訳ないけど いくつか教えてください。昼過ぎから調子が悪くなったんだけど、午前中までは、まったく普通通り だったんですね?」
患者:「いや、午前中も、いつもの調子ではなかったです。じつは、子供がインフルエンザになって、高熱で、苦しんでたので、家内も私も眠れなくて」
医師:「それは 大変でしたね。睡眠不足で会社に出てきたわけね」
患者:「そうなのです。そうしたら昼過ぎから咽が痛くなって」
ここで、医師は、自分のペースで情報を収集する糸口を掴みました。患者の症状が、インフルエンザか風症候群かの区別をするための情報を収集すればよいのです。
医師:「咽が痛くなって、3日目なのだけど、高い熱は出ました。38度とか39度とか?」
  「身体の節々の痛みは?」
「全身のだるさは?」
「インフルエンザ」の予防接種は?」
矢継ぎ早の質問が続きます。
どう考えてもインフルエンザじゃなさそうだな と医師は判断しました。
医師:「インフルエンザではなさそうですね。」
患者:「先生、インフルエンザの検査お願いします。」
医師;「??」
次回に続きます。
  


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2009年04月04日

◆インフォームド・コンセント 6

タテの線をヨコの線にすれば、良いだろうというのは、浅薄な考えではないでしょうか。セコンド・オピニオンは、一つのブレークスルー(進展もしくは逃げ道?)のようでもありますが、遠からず別の隘路に入り込みそうな気配です。
話しを転じます。民衆宗教の「病気直し」の話題です。
19世紀前半に開教し、幕末―維新―明治と激動する時代に爆発的に伸長した黒住教、天理教、金光教では「病気直し」がポイントであったという話しです。
1883年(明治16年)に「医術開業試験規則」が、制定され、それまで漢方と蘭方が並立していた、日本の医療は、明治政府の決断で、近代西洋医学を正統医学・医療として公認したのですが、他方、世間では、「病気直し」も連綿と続いてきたのです。
沖縄のユタ、青森のイタコなどは、時々耳にします。
数年前、旭川医大で医療人類学を講じている松岡悦子氏の話を拝聴する機会がありました。吉野修験本宗 大阪別院 天龍院での実態調査です。
行者(セラピスト)と病者(クライアント)がいるわけですが、1本線の治療構造ではないのです。“霊的な存在”というもう一つの極があるのです。
松岡氏はこれを「カミ」ととりあえず記載していますが、日本古来のアニミズムを背景にした「カミ」ですから、一神教(キリスト教、イスラム教、ユダヤ教)の神とは違って、とてもゆるいイメージです。カマドの神、井戸端の神、祖先の霊 等等の総称が「カミ」なのです。
私が、ハッとしたには、その場合の治療構造です。1本線ではなく、三角形なのです。
しかも、絶対的真理を専有する「カミ」の下に、セラピストとクライアントがひれ伏すイメージではなく、両者(セラピストとクライアント)の出会いとやり取りのプロセスで、とおもすれば煮詰まってしまうエネルギーが、スーと「カミ」への通路で脱気していくイメージなのです。
セコンド・オピニオンの話しに戻ります。
大阪府立成人病センターの平岡諦氏は血液内科専門医ですが、セコンド・オピニオンについての権威でもあります。
氏は、医師集団が相互評価の仕組みを作りことで、自浄作用を維持していくことが、医療崩壊を食い止めると述べておられます。具体的には、医学会がこのシステムを構築するということです。
三角形の「カミ」の位置に、医学会の合意がくる訳です。
現代医学 特に血液疾患は、生死を分ける強力な介入を実践します。病気のために死亡したのか、治療による副反応で死亡したのか、という世界に入り込みます。専門医師の相互評価による自浄システムを早急に作らないと、介入に携わる医師は潰れてしまうよという意味で、切羽詰った問題なのでしょう。
ただ、「カミ」の病気直しの世界の、スーと脱気していくイメージはありません。
インフォームド・コンセントで明るい未来が開けるとはいきそうにないことだけ確認してこのテーマを終わります。
次回は、テイラーメイド医療です。
  


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