2009年03月29日

◆医療の現在 インフォームドコンセント 2

メルクマニュアル第17版という、簡便な教科書では、感冒・上気道感染症について、以下のような記載があります。「通常は急性の気道ウィルス感染症である。・・・細菌感染を合併していなければ、症状は4-10日で消失する。・・・細菌感染を合併することを予防するために抗生物質を使用することは勧められない」
要は、風邪(正式には、風邪症候群、感冒、上気道炎 などと言います)に、抗生物質を使うのは、意味のないことが多いと書いてあるのです。学問的には、大多数が、同様の結論だと思います。
しかし、抗生物質には根強い人気があります。当院では、処方箋を発行し調剤薬局で調剤してもらう訳ですが、時に、薬局で、抗生物質を出してもらえなかったと不満を言われた方があると、患者情報がフィードバックされてきます。
抗生物質の副作用は、一定の頻度であるし、薬剤費の問題もある、しかし、一見、風邪のようでも実は、細菌が悪さをしていて、抗生物質に一定の効果が期待できるかもしれないしと 私の考えも乱れるのです。

医師:「ところで、抗生物質はどうしますかね。」とさりげなく相手の感触を探ります。
女性:「どうしますって どういうことですか」
医師:「いや、飲んだ方がよさそうなのかな どうかなと」 と 私の口調もややしどろもどろです。
女性:「そんなこと、私に言われても・・ わかりません」
医師:「それは そうですよね」と私も、苦笑します。
結局、抗生物質は出さないことで決着しました。
現場でのインフォームド・コンセントは、ややこしいなと心中でボヤク私です。
十分な情報提供するという本来の趣旨からすれば、①風邪症候群の定義 ②現在の症状が風邪症候群であると考えられる根拠 ③多くはウィルス性のものであること(文献を引いてその確率まで明示できれば満点) ④抗生物質はウィルスには効かないことの説明 ⑤ただ細菌による上気道炎の可能性とか、ウィルスに細菌感染が合併する可能性もあるので、抗生物質は、まったく無意味とは言えないこと ⑤ただ抗生物質による副作用もあること。但し、短い投与期間だと、危険性は減ること ⑥薬剤費の問題  こうしたことを縷々説明して、その情報開示の上で、飲むどうかを決めるというのがインフォームド・コンセントなのでしょう。
でも、現場では、上記のくどくどした情報開示に、へきへきする人が大部分でしょう。
ただの風邪じゃないか、御託をならべずにさっさっと薬出してよ というのが多くの方の本音のような気がします。医師の前で、露骨には言わなくても。
次に、決定は患者がするのか、医師がするのか、二人の合意なのか。これも奥深い問題です。
ただの 風邪を例にあげて、インフォームド・コンセントを考えたのでピンとこないのでしょうか?
ガンの治療という深刻な問題ならピンとくるのでしょうか?
深刻な問題は、身構えてしまうので、身構えなくてよい例の方が、インフォームド・コンセントを自由に考察できると思うのですが。
次回に続きます。


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Posted by 杉謙一 at 07:01│Comments(0)診療の徒然に
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