2009年03月14日

◆医療の現在 治すということ 4

前回までの、やり取りで 治療的介入をするための、セッティングができたと感受しました。
これは、患者である女性と医師である私が、共に そう感受することが、ポイントです。言葉で確かめるわけにはいかないので、私の感覚で、判断するしかありません。一定のリスクをとって。
10時間 絶食して検査した血糖が104mg/dlの時、その値で糖尿病と言えるか?といった類の知識は、クイズ形式の言葉で、簡単に確認できますが。
セッティングができたという判断のもと、私は、今 ○○さんに生じている事態を手短に描写しました。
インスリンという糖代謝の、核になるホルモンの極端な作用不足で、細胞はエネルギー源である、ブドウ糖を燃やせないこと。
結果的に専ら、脂肪を燃やしてエネルギーを得ていること。
 脂肪に偏ったエネルギー産生をするとケトン体が異常に増加してくること。
ケトン体が異常に増加すると、きつくなり、吐き気が出て、さしあたり急激な体調不良に陥ることも多いこと。
3ヶ月前から尿ケトン体が出現しながら、普通に生活できていたの不幸中の幸いであったと。次に、今のケトン体の問題は、数日―数週間―せいぜい数ヶ月で、破綻するか回復するか決着する問題だが、実は糖尿病には、数年―数十年の時間単位の問題らあること。
それが、血管障害であること。
尿蛋白陽性は糖尿病で腎血管が傷んでいる結果であることが疑わしいこと。糖尿病で腎臓が傷んで、腎不全になって、人工透析に導入される人が、毎年、2万人に迫りつつあることなどです。
医師:「・・・・ということです。私が○○さんの。尿糖、血糖、ヘモグロビンエーワンシーはともかく、尿ケトン体と尿蛋白にショックを受けた理由です。」
女性:「・・・・」
表情と気配の察知に、神経を集中します。
まず、1週間の暮らし方を指示しました。具体的に、相手の日常生活との整合性をつき合わせて、プランを練り上げました。
薬は、腸での糖分の吸収を抑制する、軽いものです。本当は処方しなくても良いのかもしれませんが、本日のセッティングでは、どうしても必要だと思いました。
医師:「1週間後にいらしてください。朝食前の血糖と尿ケトン体を見て、その結果で考えましょう」
女性:「ハイ」
1週間後の再診を約束して、帰られました。表情には、少し 希望も感じました。

E・キューブラー・ロスは、「死ぬ瞬間 死にゆく人々との対話」という本を書きました。末期がんの人々との対話をベースにした著作です。
30年以上前ですから、がん=死病と考えられていた時代です。
この本で、末期がんの方が、自分の運命に直面した時の心境として、否認、怒り、取り引き、抑うつ、受容、希望 というものが、描かれています。
現在の私達から振り返ると「末期がんの人でも、普通のヒトなんだよね」という当たり前の話ようにも思えるのですが、1960年代末には、画期的な知見だったのです。
E・キューブラー・ロスの画期的知見は、一般化され、現在では、「悪い知らせを告げる問題」とも呼ばれています。医療の場では、とても重要な問題だと思います。
今回、取り上げた40代後半の女性も、「悪い知らせを告げる問題」でもあるのです。
次回に続きます。


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Posted by 杉謙一 at 05:56│Comments(0)診療の徒然に
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