2009年02月14日

◆自家製の病気と医家製の病気 2

前回、現実の医療に沿って考えると言いましたが、もう少し「医療における精神療法の技法」バリント夫妻著 に よりかかりながら考えます。
①精神科医(精神療法の専門家)が、精神療法全般を仕切れるだろうという、誰もが認める先入観が、ありふれた身体疾患に対して精神療法を活用することを邪魔した。
ひとつは、専門家優位という前提です。医師という職業自体、高度の専門教育を受けた、病気についての専門家であると、社会が認める職業です。その医師の世界でも、身体を取り扱う医師(身体科医師)と精神を取り扱う医師(精神科医師)は、大別されている。精神療法は、専門家の中の専門家が取り扱う特殊な療法だという暗黙の前提があって、それが、一般身体科医師が、薬や処置と同様に精神療法を、活用することを妨げたのだというです。
②実は、専門的知識が大事なのではなく、“治療が実施される設定”が大事なのだという意味のことが、書いてあります。精神療法の専門家だから、治療効果があがるのではない。身体的訴え(患者が医師を訪れる時の主訴)それに対して、身体科医師が、問診―診察―検査―薬・処置・手術 で介入する その一連の医療行為の設定の一貫として、精神療法が埋め込まれると効果が上がるというのです。
③それぞれが独自の精神療法を育むしかない、糖尿病内科の精神療法、脊椎外科の精神商法、冠血管インターベンションの精神療法 など等。
④問診―診察―検査―薬・処置・手術 で介入する という一連の身体科の医療行為は、実は、主訴から始る 患者と医師との相互作用の永い積み重ねで、歴史的に形成されてきた。身体科ごとの精神療法も、同様の手間隙を、必要とされるのに、門外漢の精神科医に、お願いしてもうまくいかないよというのです。
⑤身体医学では、医師―患者の相互作用、医師自身を振り返るという発想はない。医師は検査のデータとか、診察所見を、客観的に見て、判断・決断・介入する。しかし、精神療法の前提は、医師自身が患者と同地平でのプレーヤーである。自分もマワシを着け土俵に上がり、感情の揺れの中で、医療行為をすることに、自覚的になる訓練が必要だというのです。
⑥かくして、“精神療法は特定の患者と特定の医師との相互作用である”と書かれています。
精神科医の専門的議論は、精神病理や精神力動の解明に向けられ、肝腎の精神療法は、精神科医の気侭な、個人的作業になっていると批判しています。
これは、身体科医師にも、当たる批判で、専門が高度化すると、病理や病因に焦点が当てられ、肝腎の治療は、医師個人が適当に行うという傾向はあるかもしれません。しかし、この10年、この点は随分、改善されつつありますが。
⑦精確な診断ができるととおのずから正しい治療ができる 医師も患者も誰もが考える思考経路ですが、本当かと疑問を呈しています。現実には、擬似診断をせざるを得ない場合も多く、患者も医師もそれに翻弄される。
⑧結局、病気は、自家製の病気と医家製の病気の二重構造になっている。事故による外傷のようにこの二重構造がめだたない病気もあるが、慢性身体痛のような二重構造がめだつ病気もある。
⑨患者は新たに生じてきた不快な感覚、恐怖、疑惑、苦痛から、自分なりの病像を描きながら、診察室を訪れる。これは、医家製の病気と接点がないことが多いので、科学的病理学に依拠したい医師にとっては、どうしても不愉快な厄介なものに、映じてくる。
⑩時に追い詰められた医師は、適当な治療技法で、自家製の病気と対抗してきた。
⑪ただ、患者の話を傾聴しても(発端では必須だが)、問題解決に至らない。自家製の病気としっかり向き合うこと。医家製の病気の世界に没入してしまおうという医師を襲う衝動を制御して、二つの病気の二重性に焦点を当てること。
⑫“適合”(=matcing)という概念。二重性を統合する作業。医師がまず、二つの病気を認識し、(特に自家製の病気の認識がむつかしい。ありのままに、偶然性と時間の流れを尊重して、子供のような好奇心で、興味に満ちた傾聴とでも言うべきか)、統合して理解できるような作業をして(医師の作業として)、これを患者に伝え、(言語、身振り、表情 すべてを駆使して)患者もまた、統合して理解できるように援助する、最良の場合は共同作業になるので、どちらかの優位性は消えていく。
これが、ありふれた身体疾患の医療現場から、形成される精神療法のイメージ。

以上が、「医療における精神療法の技法」の一部分を読んで、触発されたことの 私なり要約です。
次回に続きます。


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Posted by 杉謙一 at 06:55│Comments(0)診療の徒然に
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