2009年01月12日

◆医療の現在 無症状の病気と有症状の病気 4

医学的に、病理学的に確定された疾患と突然発症した激烈な症状が一致いていることも当然あります。
“適確な診断”や“医学の立場を堅持し”という療養担当規則の文言が、ピッタシはまるケースです。
 58歳の男性です。それほど肥満体ではありませんが、臍の周囲は86cmとギリギリ メタボの基準を充たしている方です。愛煙家で、血圧は132/82と、低くはありません。空腹時血糖が108mg/dl 総コレステロールは214mg/dlと正常ですが、HDLコレステロール34mg/dl 空腹時中性脂肪160mg/dl と 異常値で 今 話題のメタボ健診の基準に照らせば、積極的支援の対象に階層化されます。
会計事務所を経営する会計士で働き盛りです。プロ的仕事師で、24時間 闘っていますという感じの方で、会議、顧客との面談と予定表は日曜日の付き合いゴルフまで含めて一杯です。
身体不調感はとても乏しい方で、大変だ 疲れたという弱音は吐きませんし、事実、身体の不調はあまり感じてないようです。
絶えず身体の不調を、自覚して中年以降を、暮らす方は珍しくありませんが、こうした方と、対極に位置しているのです。
1月の寒い或る日、件の58歳の男性は、会計事務所のオフィスで、重要な会議を終了し、同じビルに入居している顧客企業との打ち合わせのため移動していました。3階上のフロアーなので、階段を上ると ちょっとした運動になるのですが、そうした健康への気遣いはまったくない方です。
58年間 生きてきてただ1回の入院は、10年前、突然、尿管結石が生じた時だけなのです。この時は、さすがに病院に駆け込みましたが、強力な鎮痛剤で、直ぐに痛みは止まり、引き続く 衝撃波による結石粉砕で1週間の入院でした。その間も入院翌日から、書類とノートパソコンを病院の個室に持って来させ、普通の半分程度の仕事はこなした方です。
 生活に支障があるような痛みが発症した時、病院に駆け込めばなんとかしてもらえる。問題はその間の仕事の調整だな。敢えてこの方の病気観を言葉にすればこうなるでしょうか。
さて、この58歳のこの男性です。
エレベーターで3フロアー上がって、廊下に足を踏み入れた時、喉の下 辺りに鈍い違和感を感じました。痛みとは違うがこれまで経験したことのない不快な感覚です。
身体からの情報は、気にしないタイプなので頭は、数分後に始る顧客企業との打ち合わせの方に向かおうとします。
少し軽くなった違和感が、前以上に強くなり、喉の下方から前胸部に下がりました。やや左に偏移した部位ですが、ココと身体表面で同定しにくいのです。
男性の中に、かすかですが不安が生じました。全て数値に換算して、合理的に問題解決を練る頭を作り上げてきた方です。“不安”には無縁の方です。
他方で時間を気にしながら会議室に向かいます。元来、早足です。
胸の違和感が、1段階変化しました、痛みになったのです。10年前の尿管結石の時の七転八倒の右背部痛の痛さに急速に近づきました。今回は前胸部で少し左に偏っています。息のしづらい感じも伴っています。死が切迫しているという恐怖感を感じました。ただ痛かっただけの10年前と異なります。
男性は廊下に蹲ります。周りの人が「大丈夫ですか」と呼びかけると、顔面蒼白で呼吸が荒くなっていますが意識はあります。「
イタイ!」子供のような口調で48才の男性は言い始めました。もう見えも外聞もありません。「イタイ! イタイ!」次第に口調は悲鳴に近づいていきます。
この男性は、救急車で、心臓専門病院に搬送されました。冠動脈左前下行枝の急性心筋梗塞でした。発症して1時間以内のカテーテル治療で、血流は再開し、劇的に痛みも軽快しました。
有症状の病気が最先端の医療を駆使して、鮮やかに直ったケースです。こうした分かり易い推移が、現在の医療の大部分なら、多分 ブログ医療の現在はありえないのですが。
次回が後日談です。


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Posted by 杉謙一 at 06:48│Comments(0)診療の徒然に
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