2008年10月28日

◆医療の現在 血液サラサラの行く末 4

心臓を栄養する、血管である冠動脈が血の塊(血栓)で詰まって、心臓の筋肉が死んでしまう、虚血性心臓病や心筋梗塞。
これを救済するには、しなやかな血管とサラサラの血液、これらを具体化した、医療技術が、冠動脈へのステント留置と抗血栓剤でした。しかし、異物であるステントが冠動脈の内空に剥きだしになることで、突然、止血のメカニズムが発動するかもしれない。もし発動すれば、短期間にステント血栓が形成され、高度な医療技術と高度な医療器具の成果が、潰える。それだけは、防ぎたい。
この点は、医師も患者も共有する強い願望です。この願望は、現時点では、血液サラサラを長期間続けることに向かっています。
もっと先では、しなやかな血管の再生がターゲットになってくるかもしれません。いわゆる“再生医療”です。現代医療は、生命科学の知識を背景に、次々と新しいターゲットを創りだしてゆきます。
 ただ、現時点での日常臨床では、薬剤溶出製ステントが、中心的専門医療です。そこでは血液サラサラが喫緊の課題なのです。
血栓は固めようとする力と溶かそうとする力の微妙なバランスの産物です。主役は血小板と血管内皮細胞です。現時点では血小板がターゲットです。血を固める力の原動力である、血小板の機能を押さえ込んでしまえばいいのです。抗血小板作用といいます。
1個の血小板の中で生起している、物質のレベルでの化学反応がかなり分かっていて、最終的には、血小板細胞質のカルシウム濃度が上昇すると、多数の血小板が集結し・固まり(凝集)血栓を作るのです。カルシウム濃度が上昇するまでには主に3種類の化学反応の経路が解明されており、それぞれの経路を阻害する薬が既に開発されています。
3つのうち2つの経路を阻害するのが、標準的治療です。ひとつは、“血液サラサラ”の最初で触れた“ポリピル”には必須のアスピリンです。商品名としては、“バイアスピリン”が広く処方されています。もうひとつの経路を阻止する代表的な薬がチクロピジンで、“パナルジン”という商品です。しかしこれは、多数のジェネリックも発売されています。医師にも耳慣れない商品も多いので、きめ細かく検索して確認する作業が必要です。こうして、ステントを挿入中の方には、広くこの系統の2剤が処方されています。
“DAT”と略称されています。Dはダブル Aは抗血小板の{抗}={アンチ}の英語の頭文字のA Tは{治療}={therapy}のTです。
かくして、冠動脈が詰まったり詰まりかけた方は、インターベンション医に救急搬送され、薬剤溶出性ステントを素早く留置され、早期に退院し、長期にDATを受け、血液サラサラ状態を維持することになる訳です。
しかし、冠動脈だけに病気が限定するわけではありません。同じ方が、抜歯することもあるでしょう。胃カメラを飲んで、ビランが見つかり、癌が疑われて、生検するかもしれません。生検とは、胃カメラの先端から、鉗子を出し、胃粘膜の組織を少し齧り、病理医に癌かどうかを判定してもらう検査です。勿論、同じ方が心臓以外の病気で手術を受けることもあるでしょう。ステントを入れている方の多くは高齢者であり、高齢であるということは冠動脈のみならず、様々な部位が傷んでくるということです。背景にあるのは老化ですから。
 抜歯にせよ、生検にせよ 手術にせよ いずれも出血します。止血機構が活発に働いて、血が止まらないといつまでも血がでるかもしれません。そのために重大な結果を生じるかもしれません。
あっちを立てれば、こっちが立たないのです。どうするか・・・・。
次に続きます。


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Posted by 杉謙一 at 06:42│Comments(0)診療の徒然に
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