2008年10月05日

◆医療の現在 5

①苦痛を軽減する薬の代表なんといっても“痛み止め”でしょう。痛まないようにして欲しいというのは、一貫して、医療への期待の中核の一つでした。
アスピリンが近代医学に登場した始めての強力ない痛み止めでした。(アヘンに代表される麻薬は別格としておきます)。
 アスピリンから始まった近代医学領域では痛み止めとして様々な薬が開発されました。
現在それらは非ステロイド性抗炎症剤と総称されています。文字通り“強い薬”ですが、消化管、腎臓 其の他への副作用も知られており、長期に使用する場合は医師にとっても緊張しながら処方する薬です。患者として、経験を積んだ方も非ステロイド性抗炎症剤はよく効くが副作用も強い薬だとご存知です。
 痛みにどう対処するかの原型として、私が思い浮かべるのが我が子の怪我に対する母親の対応です。転んでオデコを打ち泣きじゃくる子供を抱き上げて、「痛いの 痛いの 飛んでいけ!」というまじないをかけると子供が泣き止むというシーンです。癒しのわざの原型だと思うのです。
多量の出血があったり、いかにも骨が折れているように見えたとき、母親は抱き上げたり、まじないをかけたりするより、直ちに救急車を呼ぼうとするでしょう。つまり、母親が子供を抱き上げて、まじないをかける前段階として、ケガはたいしたことがないが子供は何かをして欲しいと母親に求めているという現状を、瞬時に評価しているのです。“超常的なわざ”と“癒しのわざ”どちらが登場する場面なのかを。
“癒しのわざ”を行使する時は過程が大切です。母親の場合、駆け寄って抱き上げて、明るい口調でまじないを唱えるといった一連の動作すべてが大切なのです。勿論母親の場合は計算した行為ではなく、愛情と落ち着きから自然に紡ぎだされた一連の行為です。
職業人として、患者と向き合う医師にとって、母親の子供への一連の行為を真似るのはとても難しい課題です。
 痛みに対して湿布薬を処方することがあります。加齢とともに腰、肩、膝の身体痛で悩む人が多いのはご存知だと思います。多くの場合“超常的なわざ”、例えば手術による身体痛の除去がむつかしいことを患者さんも認知しています。しかし、痛い、どうかして欲しいこういう時には湿布薬が有効です。愛用している方に伺うと、入浴して、よく肌を乾かしてやおら、場所を精選し、丹精を込めて貼るという一連の行為が大切なようです。勿論、湿布薬の薬理効果(非ステロイド性抗炎症剤を含有しています)も重要ですが、多分セッティングも同様に大事なのです。“手当て”が癒しのわざの原型だとすれば、貼るという動作は手当てとダブります。
本来、“癒しのわざ”と“超常的なわざ”は、医療の両面で両方をその時々に使い分けて、治療効果が上がるのでしょうが、近代医学・現代医学の驚異的な知の蓄積とそれを追いかけることにエネルギーを費やした挙句、原点が霧散してしまった感もある現状です。結果的に医師は「癒しのわざ師の癒し知らず」と揶揄される状況に追い込まれているのかもしれません。
ただこうしたことの背景にはアニミズム的世界像が自然科学的世界像に打ち負かされたという歴史があるので事態は根が深いのです。
いずれにしても、「いやいや、どうも ここまで効くのはちょっとね・・」という患者さんの言葉はとても示唆的な一言ではありました。


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Posted by 杉謙一 at 09:21│Comments(0)診療の徒然に
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