2008年09月15日

◆医療の現在 精神的なものでしょう

例えば、中年の女性が、1年前から、臍の下方に、排尿後に違和感を感じると訴えて受診されたとします。勿論、始めて医療機関を訪れたわけではなく、内科、泌尿器科を複数受診されています。尿路感染を疑われ、抗菌薬を飲まれたこともあります。尿意切迫感を鎮める薬の投薬を受けたこともあります。少しやよくなったような気がすることもあるのですが、結局 元の木阿弥。薬で胃があれることも起こり、最近は薬を飲むことも不安です。かといって症状は、消長しながらも持続しており、スッキリよくなりたいという気持ちはいつも持っています。最近、悪化傾向なので、新規の内科クリニックを受診してみたというお話です。聞いているうちに、医師の中にも不安が大きくなってきます。「みたところウツではなさそうだし、これはややこしそうだ。深入りしないようにしないと」
とりあえず、血液検査、尿検査、エコー検査など一般的検査を勧めて、くだんの女性も同意します。案の定検査結果に異常はありません。さてこれからどうするか?

「身体愁訴においてそれに見合うだけの異常を見出せないとき、『ストレス性』、『自律神経失調症』、『心身症』、『精神的なもの』などという用語で安易に解釈したり、患者に説明しないで欲しい」“精神障害の臨床”という日本医師会雑誌の生涯教育シリーズで医学部精神科教授が書いておられます。身体科医師(精神科、心療内科以外の全ての科は身体科といえると思います)にとっては、耳の痛い言葉です。

医師「検査結果は特に異常ないようですよ」
患者「でもオシッコしたあと、お臍の下にカァーと灼熱感が沸きあがってとても苦しいのです。」
医師「でも 検査は異常ないし、専門の泌尿器科でも異常なかったみたいだし」
患者「じゃあ 何故・・・。 精神的なものですか」
医師「でしょうね。 多分」
と医師も追いつめられ。切羽詰って禁句を、間接的に認めることになります。

「精神的なものだろう」、「精神的なものじゃないんですか」この言い方は、身体科の医療現場では、しばしば使われています。
糖尿病内科で、患者さんの病態を医師と看護師で話すとします。
「先生、この患者さんは1日に60単位もインスリン注射をしていますが、Ⅰ型糖尿病なのですか?」「いやじつは、2型だ。それはね・・・」という、専門とする身体病についての会話。
他方「この患者さんは、の頭痛はどこから来るのですか」「神経内科に受診させても異常ないというし、不定愁訴が多いし、多分精神的なものだろう。」「そうですか・・・」という身体愁訴についての会話。

つまり、専門とする身体病に対する取り組みと原因不明の身体愁訴に対する取り組みでは,微妙に真摯さが違うのです。
“精神障害の臨床”には、原因不明の身体愁訴に不適切な説明(例えば、精神的なものでしょう等)をすると治療がむつかしくなる。医師が原因不明の身体愁訴をはやく取ろうと対症療法(例えば痛みに対する鎮痛薬)をするとかへって悪化することもある、向精神薬(抗不安薬や抗ウツ薬)を安易に使うと、薬の副作用が新たな身体愁訴となることもあるとも書いてあります。
 原因不明の身体愁訴は、ややこしいことがあるから、しっかりと気を張って取り組めと強調しているのです。
次回に続きます。


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Posted by 杉謙一 at 06:12│Comments(0)診療の徒然に
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