2009年10月26日

◆医療の現在 生きていく支え 1

或る日の診察室です。

田島さん:「先生、とにかく、○○病院では、酷い目に おうてね。くびるとよ。両手を。」
医師:「くびるって、縛るのかね。」
田島さん:「そうたい。暗い部屋に入れられてね。ご飯は持ってくれたけどね」

この類の 話し つまり自分が酷い目にあわされたという話しになると田島さんは、活気を帯びてきます。
多分、相槌ばかり打っていると、次第に加熱して、田島さん自身が 疲労しそうです。
何せ、田島さんは、もうすぐ90歳の女性ですから。

そんな馬鹿なという否定は、油に火を注ぐか、田島さんの心を閉ざす効果しか期待できません。
医師は、適度な相槌を打ちながら、他方で、別の話題に富んでしまうタイミングをうかがいます。

田島さんの、語りのエネルギーが、やや 切れた瞬間が来ました。
医師:「ところで、田島さん 田島さんの借りているアパ-トの部屋には風呂はついてないんだったよね」
一瞬、とまどった田島さんですが・・。
「そうそう」とすぐに、応じてくれました。

こうした点では、疎通性(ラポール)の良い田島さんです。
“風呂”の話しは、医師のアイテムの一つになっています。
妄想の語りに入り込んだ田島さんの方向を切り替えるためのアイテムの一つに。

約6ヶ月前、田島さんは、「血圧の薬もらえんね。」と初診されました。
従来、通院していた、診療所が閉鎖したというのです。
医師は、血圧の薬を処方しながら、診察を重ねるうちに、最近、田島さんとの会話のコツを心得るようになったのでした。

次回に続きます。


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Posted by 杉謙一 at 05:46│Comments(0)診療の徒然に
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